豊かな食生活に対するお客様や社会のニーズはますます高まり、多様化しています。これまで培った生産技術力や物流ノウハウに、人工知能(AI)※・IoT・自動運転・ロボットなど新たな技術力によってさらにコアコンピタンスを強化し、社会の課題解決に積極的に取り組んでいきます。
ニチレイフーズグループの㈱キューレイ(福岡県宗像市)の米飯新工場が2023年4月に稼働を開始しました。この新工場では、日産約70トンの生産が可能です。また、最新設備を導入しており、環境配慮や自動化への取り組みを強化しています。環境配慮では、フロンガスを使用しない自然冷媒冷凍機の使用のほか、屋上への太陽光パネルの設置、再生可能エネルギーの活用などによるCO₂排出量の抑制を推進しています。自動化では、AIロボットと高性能カメラを活用した焦げの検品・排除や原料の荷下ろし・製品パレット積み・パレット搬送の自動化を導入しています。
ニチレイフーズは、AIを活用して最適な生産計画と要員計画を自動立案するシステムを(株)日立製作所と協創し、2020年度から国内の2工場で運用を開始しています。本システムは、熟練者が複雑な制約条件をもとに立案していた計画を、高度なAI技術により再現・進化させるものです。例えば要員計画の作成には「法規制」のほか、「個々の力量」「残業、有休」などさまざまな条件を考慮する必要があり、これまでは熟練者が経験に基づく勘に頼って、「なるべく、できるだけ」それらの条件に配慮しながら計画を作成していました。今回、こうした「なるべく、できるだけ」という感覚までもAI技術を用いて数値化し、さまざまな組み合わせの中から最適解を自動立案することに成功。これにより計画立案にかかる時間を従来の10分の1程度に短縮することができるほか、熟練者以外の従業員も計画を作成できることから、労働時間の低減や休暇取得の向上など「働き方改革」の一助となることが期待されます。また、近年、食品メーカーでは、需要変動に対応して商品を生産・供給することが求められるため、先進のデジタル技術を活用し、効率の良い生産体制を構築することで、顧客満足度の向上にも寄与します。ニチレイフーズではこれからもデジタル技術の活用を通じて、生産性向上・リードタイム短縮・在庫圧縮への取り組みや働き方改革をさらに推進していきます。
●生産計画立案イメージ
1工場で最大16兆通りの組み合わせがある中から、日別のラインごとの生産商品・生産量などの生産計画、作業者のシフトスケジュールなどの要員計画を自動立案。
ニチレイロジグループは、撮影画像からAIを用いて賞味期限を自動で読み取るソリューションの実証実験を終え、2020年度では全国50拠点へ実導入を開始しています。庫内作業のフルデジタル化を目標に掲げ、その一環として作業のタブレット化に取り組んでおり、AIソリューション導入はその機能拡充を目的としています。これまで手動で行われていた賞味期限入力業務を、AIソリューションにより93%以上という高い読取精度と約2秒という高い処理速度で、手入力することなく完結します。その結果、さらなる品質管理向上につながり、賞味期限画像の記録化、オペレーション簡素化による業務の「誰でもできる化」への転換、ストレスのない作業運営を実現することが可能となりました。
ニチレイロジグループでは、2018年1月より自動運転フォークリフトの冷凍倉庫内での実証実験を行い、2021年にグループ傘下の(株)キョクレイ大黒物流センターにて実導入しています。自動運転フォークリフトは、タブレット端末で指示を出すため、体力や操作技術の経験がない従業員でも簡単にミスなく動かすことができるのが特長です。今後は順次、自動運転フォークリフトを実導入できる拠点数を増やし、労働時間の削減や現場作業の省力化、および庫内の労働安全衛生につなげていきます。
ニチレイロジグループ本社は、Telexistence株式会社(以下、TX社)と協同し、物流施設の冷蔵エリアで、TX社製の遠隔操作ロボットがカゴ台車に混載積み付けをする実証実験を行いました。
本実験では、冷蔵エリアに配置されたロボットを人間が事務所から遠隔操作することで、物流センター作業におけるリモートワークとストレスフリーな作業環境構築の可能性を検証しました。オペレーターは対象物や積み付け場所などを目視確認。遠隔操作によってロボットを移動させたりアームを動かすなどして、作業を進めました。
今後も先端技術の導入や作業のデジタル化を積極的に推進し、サプライチェーンを支える持続可能な物流の実現に取り組んでいきます。
ニチレイグループは、食品の加工・生産、低温物流で培ったコアコンピタンスをさらに磨き上げ、グローバル市場における社会課題の解決と競争優位性により、収益力向上を実現していきます。
●地域別売上高推移(全セグメントの海外売上高をエリア別に集計)
●強みであるマーケティング力を駆使、生産・販売一体で米国事業をさらに強化
米国では、アジア系人口の増加によりアジアンフーズが生活に浸透、市場は拡大を続けています。現地の嗜好・トレンドを先読みするマーケティング力を備えたInnovAsian Cuisine Enterprises Inc.は、市場の伸長を上回る成長軌道を描いており、ニチレイフーズの海外事業のドライバーとして、その存在感を一層高めています。
同社の主力カテゴリーは、チキン・米飯・アペタイザー(前菜)であり、ニチレイフーズが持つ技術や知見を活かしやすいことは大きなアドバンテージとなります。2050年にはラテン系住民が米国人口の3割を超える予測の中、アジアンフーズ同様この3つのカテゴリーでラテン系ブランドを立ち上げ、2024年春に販売を開始し、新たな需要創造にチャレンジしています。
一方、2022年にはカリフォルニア州に米飯の自営生産機能を保有しました。ニチレイフーズの強みである加工・調理技術を活用し、現地の生活者ニーズに適うおいしさを再現する生産体制が構築されました。
今後も続く米国の旺盛な食品市場を捉え、生産、販売の両面でさらなる事業拡大を目指します。
●がんの診断で患者さんの最適な治療に貢献
2019年、がんの診断に用いられる医療機器を主に米国、欧州で販売している米国の医療機器会社Pathcom Systems Corporationを買収しました。世界的な高齢者の人口増加に伴い、世界的にがん罹患者数が増加しています。これを背景に、がんを診断する免疫組織化学染色の市場も拡大しています。今後は医療機器と診断薬の開発・生産・販売を一体とした、フルオート自動染色装置をプラットフォームとする装置専用試薬販売モデルの海外事業展開を推進していきます。
ニチレイロジグループの欧州事業は、1988年にオランダ・ロッテルダムの冷蔵倉庫会社を買収したところから始まりました。そこからM&Aによってドイツ、ポーランド、フランス、イギリスへと事業を拡大。欧州各社の経営は現地化され、これらを統括しているのが、ニチレイロジグループ駐在員が籍を置く中間持株会社Nichirei Holding Holland B.V.(以下NHH)です。現地経営でM&A前からの保有顧客やブランド、雇用維持をしながらNHHとしては欧州各社の事業モニタリングや戦略立案、実行支援、ガバナンス強化などの役割を担っています。長年の経験を通しデューデリジェンスをはじめとしたM&Aにおけるノウハウ・体制も整っています。
●強みであるワンストップサービスの拡大とポーランド事業基盤の強化を加速
欧州での低温物流事業では、港湾の冷蔵保管機能に、海上輸送からドレージ、通関、流通加工、輸配送までを組み合わせた国境をまたぐワンストップサービスのさらなる拡大が基本的な戦略となります。2024年1月にはオランダ、英国において組織の再編を行いました。これは今まで別々の会社でビジネスを行っていた輸配送、保管事業を統合することで、ワンストップサービス提供の加速、ノウハウの横展開などを狙ったものです。加えて2024年5月には英国でフォワーディング会社の買収を行いました。
また、ポーランドでは、量販店向け冷凍物流事業において圧倒的なポジションを確立するまでに成長しています。2024年7月にはポーランドのズニンで増設、2024年第4四半期にはワルシャワで新設倉庫の稼働を開始する予定です。
今後もより強化された機能間の連携を活かしたワンストップサービスの拡大とポーランド事業基盤の強化に取り組んでいきます。
●グループシナジーの発揮による収益拡大
●鶏一羽のあらゆる部位の付加価値を高め、グローバルな販路をさらに拡大
タイにあるGFPT Nichirei(Thailand)Co.,Ltd(以下GFN)では、合弁先養鶏場から生きた鶏を搬入し、処理・カットを行い、直結している加工場で加工調理から凍結・包装まで一貫して行うフルインテグレーションを確立しています。GFNでは、このように安全・安心な原料の安定調達と生産ができることに加え、鶏一羽をさまざまな用途で活用しています。
国や地域によって部位の好みが異なることから、有効な用途や販路を考え、付加価値をつけて販売しています。例えば、もも肉・むね肉は需要の高い日本・欧州へ、羽根は加工して養殖魚の飼料、モミジ(足)は人気の高い中国へと、販路はグローバルに広がっています。
現在は内臓や血液などの副産物をポートリーミールに加工し、タイ国内のペットフードメーカーへの販売を強化しています。内臓などの副産物は相場に左右されやすいため、加工度を高めることで収益の安定化にも寄与します。
●各国での基盤整備と売上拡大に注力
ASEAN各国内での基盤整備と売上拡大に注力します。2023年にタイおよびマレーシアの関連会社を連結子会社化し、事業エリアと規模の両面を拡大しました。ベトナムでは、 2024年7月にホーチミン近隣で新設拠点が稼働を開始しました。発展が著しい工業団地に位置し、工場向け原料や製品などの旺盛な保管需要の着実な取り込みを図っていきます。
また、タイにおいては、2025年春に新設冷蔵倉庫の稼働を予定しています。これは食品関係企業の集積地であるバンコク北部における旺盛な低温物流ニーズを狙ったもので、庫腹増強および首都圏エリアの輸配送ネットワークの構築によるタイ事業基盤の拡充を図ります。将来的にはタイ、マレーシア、ベトナムを連携させた事業展開を目指していきます。
●高い加工技術で顧客ニーズを捉える
世界の1人当たりの魚介類消費量は過去半世紀で2倍に増加し、今後もさらなる増加が予想されています。また、市場においては魚介類に対するニーズは多様化し、それらに丁寧に応えていくことが私たちの役割であり、事業の成長にもつながると考えています。
2017年7月にベトナム・ファンティエットに設立しましたTrans Pacific Seafood Co., Ltd.(以下TPS)は、当社が長年培ってきた調達力により集めた原料を、お客様が求める形へと加工を行い、販売することで成長を続けてきました。現在は総面積20,000平方メートルの敷地内に6つの生産ラインを有し、500人以上の従業員により年間2,000トンの商品を生産しています。そして、2024年6月には2,000トンの保管能力を持つ新しい冷凍庫が完成し、品質と供給のさらなる安定化を目指せる体制となりました。
当社は、水産事業の生産拠点であるTPSから、日本はもとより世界中へ販売を拡げていきます。
TPS工場内での作業の様子
●天然ビタミンC素材「アセロラ」を用いたクリーンラベルビジネス
天然のビタミンCを豊富に含み、高い抗酸化作用を発揮するアセロラ。ニチレイはこの原料が持つ可能性にいち早く着目し、1987年に「アセロラドリンク」の発売を開始しました。1991年にはブラジルに Nichirei do Brasil Agricola Ltda.(以下ニアグロ)を設立、独自に研究を重ねて天然ビタミンCの規格化に成功しました。これにより当社のアセロラ原料を使用した商品は、「コップ一杯で1日分のビタミンCが摂れる」など、ビタミンC量の表記が可能となりました。ニアグロではアセロラ事業のさらなる拡大を目指して、2023年には「アセロラパウダー」の生産を開始しました。世界では環境への配慮、食の安全性や健康志向への意識の高まりから「分かりやすい表示やシンプルな原材料で作る」というクリーンラベル市場が拡大しています。アセロラは酸化防止や褐変防止といった効果があり、クリーンラベル市場で注目されている原料です。粉末状にした「アセロラパウダー」は製パンや畜肉加工品へも活用ができるため、さまざまな業態への提案が可能となります。ニアグロでは「アセロラパウダー」を軸とした成長に向けて、需要の高い欧州や北米に新たに営業担当を配置し事業拡大を図っています。契約農家の方との原料収穫から、安定した生産体制の構築、グローバルでの営業活動を行うことでアセロラ事業のさらなる発展を目指します。