ニチレイは2023年7月、マテリアリティ「食と健康における新たな価値の創造」のありたい姿を「素材や冷力の可能性を見出し、食を通じて地球の未来と人々の“こころ”と“からだ”の健康に貢献している」と改訂しました。それに伴い、グループ施策とKPIも見直しを行いました。
健康については、栄養に配慮した商品開発を強化するとともに、精神的かつ社会的な健康、つまり“こころ”の健康にも取り組み、ウェルビーイングの実現に貢献していきます。さらに未来の地球環境に向け、ネガティブなインパクトを最小化するだけでなく、先端技術の活用や資源保護の取り組みにより、ポジティブなインパクトを与える取り組みを強化していきます。
●食と健康における既存領域を超えた挑戦により、新たな市場や顧客価値を創造する

働き方の変化や女性の活躍、超高齢社会の進展などにより「家庭内における食事の準備にかける時間は短縮したい」という生活者ニーズは高まっています。一方で、栄養バランスや食物アレルギーなど健康に配慮した食事を摂りたいというニーズも高まってきており、多くの生活者が日々の献立づくりに苦労しています。これらの課題を解決するため、ニチレイは2021年8月、献立自動生成アプリ「me:new(ミーニュー)」を持つ株式会社ミーニューの全株式を取得し新規事業として自社開発したアプリ「conomeal kitchen」とサービスを統合、AIによる食提案サービス事業に参入しました。「me:new」は最長1週間分の献立をまとめて作成するアプリで、主に小さい子どもがいる家庭に向けて、親と子どもが一緒に食べられるレシピや、アレルギー対応のレシピを提案するといった特徴がありBtoCだけでなくBtoBのニーズも高まっています。今後は食の好みやおいしさの研究に基づくデータサービス事業という新たな価値提供にも取り組んでいきます。

ニチレイフーズではあらためてブランドステートメントを策定しました。おいしさを大切にした健康価値の提供を行うこと、そしてフードロス削減に寄与する保存性などの冷凍の価値を存分に活かし、「わかちあえる」よりよい世界を目指すことへの想いを込めました。FoodJoyは「冷凍食品がもたらす喜び」を、Equityは「一人ひとりに合わせた価値をお届けし、皆が公平になる」つまりは「わかちあう」を意味しています。
また、ステートメントの実現に向け、事業活動を通じて「4つのわかちあう価値」を高めていきます。これらの価値を高め、生活者だけではなく、私たちに関わるすべての人と社会が冷凍の利便性を享受できる事業へと発展させていきます。

ニチレイフレッシュでは、健康価値を高める食肉の研究と開発を進めています。α-リノレン酸を含む
また、新たな「健康価値食肉」として、飼料にごまを配合することで、本来食肉からは摂取できないごま由来の機能性成分であるセサミンを含む豚肉である「ごまんてん」の販売も開始しました。ニチレイフレッシュは、日常の食シーンで多く登場する食肉を通じて、健康管理や食バランスのサポートに貢献していきます。
※ 牛については個体差があります。
●100gから摂取できるオメガ3系脂肪酸(α-リノレン酸)の量の比較

“栄養過剰と栄養不良の二重負荷”という健康課題を解決すべく、栄養への取り組みを強化していきます。過剰摂取が懸念される成分は過剰摂取せず、摂取が推奨されるものは推奨量摂取できることを担保する目標の策定に向け、厚生労働省の「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」への参画などを通した取り組みを進めています。
ニチレイフーズでは、冷凍食品の新たな挑戦として、サステナブルな社会実現へ向けた代替肉の商品開発を進めています。肉を使わずにおいしさ、肉らしさを再現するため、大豆の先進的な研究をしているDAIZ社の独自技術から作られる発芽大豆を原料とした大豆ミートに、さまざまな種類の大豆ミートを独自に組み合わせ、さらに当社が培ってきたおいしさの再現ノウハウ、技術を融合させることで健康感とおいしさを両立した商品となりました。

アセロラビタミンCの高い体内吸収力に関する研究で、当社のアセロラ果実粉末およびアセロラ果汁が腸内由来の微生物へ与える影響について解析を行いました。
その結果、ヒトの腸内由来の微生物に、アセロラ果実粉末やアセロラ果汁を与えると、ビフィズス菌などの有益な腸内細菌のみならず、体に良い成分として知られる酢酸や酪酸などの代謝物質も、増加していることが認められました。
今後は、より発展的な研究を行い、結果を深掘りすることで、さらなるメカニズムの解明や、新たな研究開発、商品開発への活用が期待されます。生活を豊かにする食に科学的な視点からアプローチし、より良い健康社会の実現を目指します。

ニチレイバイオサイエンスは、患者さん一人ひとりの体質や病態にあった適切ながんの治療法や医薬品の選択をするための「コンパニオン診断薬」を、2014年に日本で初めて承認を受け、製造販売を開始しました。これまで培ってきた免疫関連技術により、効果が高く副作用の少ない適切な治療法や医薬品の選択を実現する個別化医療の発展に貢献しています。
コンパニオン診断薬 ヒストファインALK iAEP®キットニチレイバイオサイエンスでは、当社提携先であるBiocartis GroupNVが開発した遺伝子検査装置の専用診断薬の日本での普及を図っており、2022年および2023年に、専用診断薬を用いた体外診断用医薬品2品目について、それぞれ大腸がんの治療に用いる分子標的薬のコンパニオン診断薬として製造販売承認を取得しました。これは、従来外注することが多かったがんの遺伝子検査を患者さんが受診する医療機関内で完結させることを可能とする画期的なものです。検査結果が得られるまでの時間(Turn Around Time)を短縮することにより、がん診療に新たな価値を提供していきます。

ニチレイグループは、「くらしを見つめ、人々に心の満足を提供する」というミッションの実現に向けて、「食のフロンティア力」「食品加工・生産技術力と低温物流サービス力」「グループ総合力」を強みと考え、その特性を活かした事業を展開しています。私たちは知的財産をこれらの事業活動に付加価値をつけ、企業価値向上に寄与する成長のための資産と位置づけています。競争優位性を生む技術開発とともに、事業活動と連動した特許権・商標権などの取得・活用・保護などの知的財産マネジメントを推進しています。
ニチレイグループでは事業活動と連動した特許権・商標権などの取得・活用・保護を行っています。具体的には、自社の独自技術の保護や参入障壁を構築するための特許取得、ならびに、商品名やパッケージデザインについての国内外で商標権の取得および類似品やブランドの不正使用に対する厳格な対処などを通じて、お客様の安全・安心とブランド価値の保護に努めています。また、知的財産の重要性の理解を浸透させるため、全従業員対象のeラーニングの実施やポータルサイトでの情報発信など、社内での知的財産教育にも取り組んでいます。
ニチレイグループでは、「既存事業の拡大」と「新規事業への進出」を円滑に進めるために以下を基本方針として知的財産活動を行っています。
●基本方針
| 事業優位性を確保する知的財産権の取得 |
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|---|---|
| 他者知的財産権の尊重 |
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| 事業・開発に資する知財情報の提供 |
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●IPランドスケープの取り組み推進

●ロングセラー商品の開発力とブランド力を守る
ニチレイグループには、ロングセラー商品が数多くあります。持続的な売上をサポートできるように必要に応じた知的財産権を取得し、当社の技術力とブランド力を保護しています。例えば、冷凍調理炒飯市場において24年連続売上No.1を保持している「本格炒め炒飯」を保護するために複数の知的財産権を取得しています。特許については、持続的に権利を保有できるように技術開発にあわせ、特許出願をしています。特に、当社の強みである特許製法技術「三段階炒め製法」については、自社技術の競争力を確保できるように複数の特許を取得しています。商標については、文字、商品名ロゴ、パッケージ、キャラクター多角的に権利を取得し、ブランド保護を強化しています。
「本格炒め炒飯」
「イタメくん」
●戦略的な知的財産権の取得で新規事業に貢献する
新規事業は、より戦略的な知的財産権の取得が重要となります。ニチレイグループでは、事業成功に貢献できる強い権利取得に取り組んでいます。人工いくらである「みらいくら」の販売を冷蔵品にて開始していますが、ニチレイグループの強みである冷凍技術を活かし、冷凍化に成功しました。他者牽制を意識し、市場参入に優位となるよう冷凍品だけでなく、冷蔵品にも権利が及ぶ形で特許出願をしています。事業貢献できる強い特許を取得するために知的財産の観点からから追加実験の提案を行い、開発にて補充データを取得する取り組みに注力しています。
「みらいくら」
ニチレイフーズは、研究開発、商品開発、装置開発と相互に連携・試行錯誤を重ねながらおいしさにこだわった商品を世の中に届けています。


食品事業 事例冷凍の「冷やし中華」開発
●長年蓄積した技術力と商品開発力の活用

ニチレイフーズ 食品総合研究所
商品開発部 商品開発管理グループ
グループリーダー
奥村 尚
開発前、冷やし中華はチルド売り場にはありましたが冷凍食品売り場には見当たりませんでした。冷凍庫に常備でき、電子レンジ調理だけで食べられる冷やし中華があれば、新しい価値が提供できるのではと考えました。しかし、冷凍食品売り場に冷やし中華自体がなく、どの会社でもいまだ世に出したことがない商品となります。また冷凍食品は、電子レンジ調理だけで簡単に完成することが魅力です。麺を冷やす・締めるという手間が増えてしまっては、冷凍食品として販売する意味がありません。「手軽さ」と「冷たさ」を、どう両立するか、この解決のヒントは、約15年前に取得した特許技術にありました。
ニチレイフーズは2008年、「袋の中に麺とタレ、氷を一緒に入れ、電子レンジで加熱した後に混ぜる」という技術で特許を取得していました。氷はマイクロ波を受けにくく、電子レンジで加熱しても溶けにくいという特徴を持っています。そのため、麺と氷を一緒に電子レンジで加熱すると麺だけが温まり、溶け残った氷で冷やすことができるのです。しかし、袋の中で麺がタレに長時間浸かってしまいお客様のもとに届く頃には見た目も食感も損なわれてしまうため、当時は商品化には至りませんでした。そこで今回は「袋ではなくトレーに麺を入れる」、もう一つは「タレを個包装にして別添えする」といった2点を軸に開発を進めました。最初の実験の結果は、見た目も食感も改善せずこれではとても商品化できないと焦りました。そこから氷のサイズや量、トレーの形、タレの量など、一つひとつを何度も見直して検証を重ね、段々とおいしい状態に仕上がるようになっていきました。例えば、「氷のサイズ」ですが、電子レンジで解凍した時にあえて少し溶け残るサイズにし、タレと麺を絡めていく過程で残った氷が溶けていく設計にしました。タレも袋から出してさっとかけられるように、絶妙に凍りにくい調合を編み出しました。
このようにして、ニチレイフーズが長年蓄積してきた技術力と商品開発のノウハウによって、今まで世の中に存在しなかった電子レンジで冷たく仕上げる新製法を完成させることができました。これからも当社の技術力と培ってきた商品開発のノウハウを活かしながら豊かな食生活につながる商品を作っていきます。

食品事業 事例出来立てのおいしさの再現


惣菜・チルド商品は、一般的に食卓に並ぶ段階では出来立ての状態から時間が経過しています。一方、冷凍食品は、鮮度を保つことができる冷凍食品の強みと当社の研究開発力・生産技術を掛け合わせ「出来立てのおいしさ」を再現できると考えています。品質要素としては、香り・ジューシー感・食感・味の抑揚の4つがキーとなり、それらを高い次元で総合的に組み立てることで「出来立てのおいしさ」が実現できると考えています。
●生活者に価値ある商品を生み出し続ける仕組み
継続的に消費者に受け入れられる商品を生み出し続けるためには、偶発的ではなく仕組み化された開発体制が必要となります。ニチレイフーズの研究開発では、4つの特長があり独自の技術を継続的に生み出しています。
①目標品質の設定
開発のスタート時に目標品質(ベンチマーク)を企画・マーケティング・商品開発部門で徹底的に議論をします。目標を設定することで、おいしさの追求、開発の効率化、品質を客観的に再現することにつなげています。
②客観的な評価
食品の内部構造の観察や、香りの数値化など、商品に合わせてさまざまな数値化を行っています。これら理化学分析のデータと官能評価によるデータを組み合わせ、おいしさの「見える化」→「再現」を目指しています。
③3つの研究開発機能が連携して進める
ニチレイグループ 技術開発センターを中心に、研究開発、商品開発、エンジニアリング(装置開発・生産革新)の3つが機能連携しています。このようにソフト面・ハード面が密に連携することで目指すおいしさの実現につながります。
④データ活用
2024年度から新しいプラットフォームのもと、開発データの整備・デジタル化を推進しています。今後はAI導入なども視野に入れながら、知見・ノウハウの効率的な活用を通じてスピード感のある開発につなげていきます。

低温物流事業 事例エンジニアの知見を活かした冷凍機の遠隔監視システムを開発

ニチレイロジグループ
株式会社ニチレイ・
ロジスティクスエンジニアリング
企画開発部
(左から)野田 春岐、佐々木 隆宏

●冷凍機稼働状況遠隔監視システムとは?
冷凍機稼働状況遠隔監視システム(以下、遠隔監視システム)は、冷凍機メーカーの種類を問わず、各倉庫に設置された冷凍機の設定温度、圧力、電流などをクラウド上でリアルタイムに把握できるものです。ニチレイロジグループの知見を搭載することでオリジナルのシステム開発をシステムベンダーと進め、2022年に7拠点へ導入以降、2025年現在では52拠点で利用しています。
●現場に行かなければ何もわからない状況からの脱却
従来は、冷凍機の稼働状況の把握には、各倉庫に赴いて監視用のパソコンを閲覧する必要があり、監視システムの仕様や収集データもバラバラでした。また、冷凍機に異常が検知されてアラートメールが届いた際、異常の緊急度にかかわらず、エンジニア担当者は、夜間、休日を問わず現場に急行することが求められてきました。
遠隔監視システムは、各倉庫で独立していた監視データをクラウドにあげることで、いつでもどこでも誰もが統一化された情報を閲覧できるため、各倉庫に行く必要がなくなり、倉庫責任者がエンジニアに対し「アラートメールがきたが、冬場で温度が上がらないため、翌日の点検で十分間に合う」など、緊急度の判断や指示を下せるようになりました。
●エンジニアとしての知見の集約化
開発時には標準化を重要視しました。冷凍機によって特性やメーカーが異なることから、各倉庫で管理しているデータの要件定義が異なっていましたが、エンジニアたちで意見を出し合い、データの優先度を判断したり、時にはメンテナンスのやり方自体も標準化させたりしながら、システムを構築しました。
さらに、冷凍機には表示物がつけられていないため、場所の把握や冷却器Aと冷却器Bがつながっているなどの仕様の特定に時間を要する場合もありましたが、遠隔監視システムには設置場所や仕様の情報も搭載し、情報を可視化させました。これにより、倉庫間の比較や分析が容易になり、次の低温施設の設計時に知見を活かすなどの改善につながっています。
●倉庫オペレーション全体の最適化を見据えて
今後は遠隔監視システムに、故障が起きる前に予兆を知らせてくれるような仕組みや、物量に応じた冷凍機の出力変更の仕組みなど、遠隔監視システムと倉庫在庫管理システムを結びつけて保管とエンジニアリング両面の効率化につなげられるような仕様を増やせないか検討しています。さらに、遠隔監視システムは冷蔵倉庫業界が抱える共通の課題解決につながるため、他社への販売も目指しています。
●遠隔監視システム全体図

●冷凍機フロアマップ
